
目次
「歯が痛くなったから歯医者に行って、治療してもらった」
「詰め物が取れたから、そこだけ直してもらった」
そんなふうに、“気になるところだけを治す”治療を繰り返していませんか?
実はそれが、あなたの歯を少しずつ削り、やがて抜歯に至る道を作っている可能性があるとしたら、どう感じるでしょうか?
「歯医者は“痛くなったら行くところ”」から、「痛くなる前に通うところ」へ。
“予防”と“全体を見た治療”こそが、歯の寿命を延ばすための鍵なのです。
日本はまだまだ「部分治療主義」?
日本でも少しずつ「予防歯科」の考え方が広がりつつあります。
歯科医院でも、定期健診やメンテナンスの重要性を伝えるところが増えてきました。
しかし現実はどうでしょうか?
平成28年(2016年)の厚生労働省の調査によれば、過去1年以内に歯科健診を受けた日本人の割合は53%。
スウェーデンなどの歯科先進国では80%以上が定期的に歯科健診を受けているのに対し、まだ大きな差があります。
しかも、日本では「痛いところだけを治す」対症療法、つまり部分的な治療が中心となっているケースが非常に多いのです。
なぜ部分治療では歯が守れないのか?
たとえば、「左上の奥歯が虫歯になって痛い」という理由で来院された患者さんがいたとします。
その場合、痛みのある部分だけを削って詰めて終わりというのが一般的な治療の流れです。
もちろん、緊急の症状を改善する意味では大切な処置ですし、部分的な治療が悪いわけではありません。
ただし、それが毎回“その場しのぎ”で終わってしまっているとしたら注意が必要です。
というのも、歯というのは1本1本が独立しているわけではなく、全体でバランスを取って機能しているからです。
-
片方の歯を失えば、反対側の歯に負担がかかる
-
噛み合わせがずれることで、別の歯が欠けたり、痛みを生じたりする
-
バランスが崩れると、歯ぐきや顎の関節にも悪影響が出る
このように、「ある部分のトラブル」がお口全体に波及していく可能性があるのです。
治療を繰り返すと、歯はどうなるか
「同じ歯を何度も治療している」という声をよく耳にします。
この繰り返し、実は歯にとって非常に大きなダメージです。
なぜなら、虫歯治療では必ず“歯を削る”からです。
1回目:小さな虫歯を削ってレジン(樹脂)を詰める
↓
2回目:その部分がまた虫歯になり、より深く削って金属を被せる
↓
3回目:さらに悪化し、神経を取って土台+クラウン(被せ物)へ
↓
4回目:根が折れたり、炎症が起きて抜歯に…
このように、治療のたびに歯は削られ、弱っていき、最後は抜くしかなくなるのです。
いわゆる「ドミノ倒し治療」と呼ばれる流れです。
全体を診る「包括的治療」とは?
こうした負のスパイラルを断ち切るには、“お口全体の状態”を考えた治療が必要です。
これを包括的治療(全体治療)と呼びます。
▼ 具体的には、以下のようなステップで行われます。
-
初診時に口腔内全体の資料を取る(レントゲン、口腔写真、歯周検査など)
-
噛み合わせ、歯ぐきの状態、歯並びのバランスを総合的に評価
-
必要に応じて、反対側の歯や隣接する歯も調整・治療対象に含める
-
患者さんと一緒に長期的な治療計画(ロードマップ)を立てる
部分治療では見逃していた根本的な原因を突き止め、将来再発させないための予防やメンテナンスも含めた治療を進めていきます。
「時間もお金もかかる」と思っていませんか?
「全体的な治療って、時間も費用もかかりそう…」と不安に思う方もいるかもしれません。
確かに、包括的治療は1回や2回の通院で終わるものではありません。
初診で1時間以上かけて検査やカウンセリングを行うこともあります。
でも、長い目で見るとどうでしょうか?
-
部分治療を繰り返して毎回3,000~5,000円
-
再発して神経を抜けば、1本に数万円
-
最終的にインプラントや入れ歯になれば、数十万円以上の治療費に…
それよりも、今しっかり全体の状態を整え、再治療の必要がない状態にしておくほうが、結果的に身体にも財布にもやさしい選択といえるのではないでしょうか。
歯を守るために、まず何をすべきか?
「じゃあ、いきなり包括的な治療をお願いすればいいの?」と不安になる方もいるでしょう。
まず大切なのは、今の自分の口の中がどういう状態かを知ることです。
信頼できる歯科医院で、以下のようなステップを踏んでみてください。
-
「最近、同じ場所の治療が続いている」と正直に相談する
-
初診で全体のチェック(レントゲン・歯周病検査・噛み合わせチェックなど)を受ける
-
その上で、必要に応じて全体的な治療方針の提案を受ける
そして、もし“今まで行っていた歯科医院では部分的な対応しかしてもらえなかった”という場合には、セカンドオピニオンを求めてみるのも一つの方法です。
まとめ:歯の寿命を延ばす近道は「全体を診ること」
歯のトラブルがあるたびに「その都度治せばいい」と思っていると、気づかないうちに“治療され続けている歯”がどんどん減っていくことになりかねません。
それよりも、全体的に、根本から見直す治療を受けることで、再治療を減らし、歯の寿命を延ばすことができるのです。
今、あなたが感じている“ちょっとした違和感”や“繰り返す治療”は、実はお口の中全体が発しているSOSかもしれません。
歯は、一度失うともう元には戻りません。
未来の自分の歯を守るために、今日から“部分”ではなく“全体”を見る意識を持ちましょう。