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はじめに–院長のこだわりについて
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
エンパシーデンタルクリニック 院長魚田真弘です。
今回のブログは特別編としまして
院長のこだわりラバーダム防湿についてお話したいとおもいます。
とっっても専門的な話で、引かれるかもしれませんが、ご興味ある方はお付き合いください。
ラバーダム防湿とは?その基本と目的
治療する歯をゴムの膜でお口の中から隔離し、唾液や細菌が触れない環境をつくる処置です。
唾液中には大腸と同等レベルの細菌濃度が存在し、治療部位が汚染されると感染や再発リスクが高まります。
そのため、唾液・細菌を完全に遮断する環境づくりが治療の精度を大きく左右します。
①虫歯治療時のラバーダム防湿 × IDS(イミディエート デンチン シーリング)
象牙質を細菌から守るための防湿環境
虫歯治療を行う際、私たち歯科医師は目に見えない細菌と戦っています。
細菌はお口の中に大量に生息しており、単位面積当たりの細菌濃度は大腸と同じくらいと言われています。
この細菌は唾液の中にも多く存在しています。
虫歯を削ると、エナメル質の奥にある「象牙質」が露出します。象牙質は神経に近く、とてもデリケートで、刺激や細菌に弱い組織です。治療中はお口を開けてもらいますが、休憩するためお口を閉じてもらった瞬間、唾液が治療中の歯に触れ、感染してしまいます。これらを治療する歯に寄せ付けないようにするのがラバーダム防湿です。治療する歯をゴムの膜で口の中から隔離し、唾液や細菌が触れない清潔な環境を作ります。唾液汚染は洗浄・乾燥である程度除去可能とされるものの、ラバーダムは常に最も確実な隔離法と位置付けられています (Kidd & Beighton, 1997)
当院では、セラミック修復の際には、この象牙質を細菌から守るためにラバーダム防湿をほぼ必ず行っています。
また、治療後も象牙質を守るために IDS(Immediate Dentin Sealing) という処置を行います。
IDS(象牙質即時封鎖)によるバリア形成
削った直後に象牙質をコーティングして「樹脂含侵層」というバリアを形成した上にコンポジットレジンが一層覆った状態です。
ラバーダム・IDSを行うことによって
- 治療後の「しみる」「ズキズキする」をなるべく防ぐ
- 耐酸性が高く、細菌の侵入を防ぎ虫歯の再発リスクを減らす
- セラミックの接着力を高め、治療の長持ちにつなげる
という大きなメリットを得られます。
※見えないバリア「樹脂含侵層」が接着のカギ
接着の成否を分けるカギが 樹脂含侵層 です。
歯の表面を処理したあと、プラスチック樹脂が深くしみ込み、歯と一体化してできる層です。
この層がしっかりと形成されないと同じ処理をしても歯と詰め物がうまく接着しません。金属修復にはこの機能がなく、むし歯の再発リスクが高くなる理由の一つとなります。
② 補綴物装着時のラバーダム防湿 ― 接着力の最大化
セラミックを装着する際もラバーダムを徹底しています。
口の中は湿度100%に近い環境で、そのままでは接着剤の性能を十分に発揮できません。ラバーダムで完全に水分を遮断した状態でセラミックスを接着、さらに光照射で完全硬化させることで、最大限の接着力と長期的な安定性を引き出す努力をしています。
臨床報告によるエビデンス
5年経過でセメント劣化や隙間形成の報告がある一方、
ラバーダムを使用した症例では長期安定性が高いとされています。
(Jurado et al., Rubber Dam Isolation for Bonding Ceramic Veneers: A Five-Year Post-Insertion Clinical Report, 2021)
世界的ガイドラインに準拠した接着プロトコル
当院では、世界的ガイドラインに基づいた接着手順を厳密に守っています。
- ラバーダム装着で歯を口腔内から隔離
- 消毒・洗浄でラバーダム内の歯面についた細菌を徹底除去
- サンドブラスト処理で歯面を整える
- 接着前処理を歯とセラミックに施す
- コンポジットレジンで接着し、セメント劣化のリスクを低減
- 光照射で完全硬化させ、最大の接着力を引き出す
- 余剰レジンの丁寧な除去で清掃性を確保
この工程を正しく行うことで、歯とセラミックが一体化し、長期安定した審美修復が可能になります。
③ 根管治療時のラバーダム防湿 ― 再感染を防ぐための必須プロセス
ラバーダム防湿は、虫歯治療やセラミック接着時だけでなく、根管治療(歯の神経の治療)においても欠かせない処置です。
根管治療では、感染した歯の内部(根管)をきれいに洗浄・消毒し、無菌的な状態で薬剤や充填材を詰めます。この際に唾液が少しでも入り込むと、細菌が再び侵入し、治療の成功率を著しく下げることがわかっています。
根管治療におけるラバーダムの目的
- 唾液中の細菌が根管内に入るのを防ぐ
- 治療中の薬液(次亜塩素酸など)が口腔粘膜に触れるのを防止する
- 根管内を乾燥・清潔に保ち、無菌状態で封鎖できる
実際、ラバーダムを使用した根管治療は、非使用時に比べて成功率が約2倍高いという報告もあります。 (例:Ng et al., International Endodontic Journal, 2010)
再発を防ぐための“見えない安心”
根管治療は「痛みを取る治療」ではなく、「再感染を防ぐ治療」です。 そのためには、治療中の清潔な環境が何より大切です。ラバーダムは、細菌を遮断し、薬剤や材料の性能を最大限に発揮させるための世界的スタンダードなのです。
当院では、根管治療のすべての症例でラバーダム防湿を実施し、再発リスクを最小限に抑える精密根管治療を行っています。
皆様へのメッセージ
ラバーダム防湿は、患者さんから見ると「少し手間の多い治療」に見えるかもしれません。
でも、そのひと手間が、10年後の歯の健康を守ると信じています。
私たちは“治す”だけでなく、“長く守る”ことを目指して日々診療しています。
小さなこだわりが、大きな安心につながる——
それが、私たち エンパシーデンタルクリニック の願いです。